過去を知れば未来がわかる?多くの文化が辿る5つの時代
2022.11.25
web、アプリ、グラフィック、エディトリアル、プロダクト、建築、、デザインの世界だけでもこれまで数多くの文化が生まれてきました。
これらはいずれも現役の文化ですが、歴史を遡れば消えてしまったもの、残ってはいるものの主流ではなくなってしまったものも数多く存在します。
そんな様々な文化を見ていると、発祥から終焉まで、多くの文化が同じ5つのステップを経て向かっていっているように感じます。
この記事では、そんな5つのステップを起承転結終と称して、私が関わるweb業界のことにも触れながらご紹介していきます。
この5つのステップを知っておき、自身が携わる分野が今どのステップにいるのかを意識することで、関わる分野が今後どうなっていくのかや、今関わっている分野で評価されるためには何に力を入れれば良いのかなどを考えていきやすくなると思います。
ちなみに、この5ステップは誰かの意見や記事を参考にしたわけではない私見ですので、ご理解の上でご覧いただけると幸いです。
※公開後に知ったのですがこの記事で紹介する話と近い話で「ライフサイクル理論」または「プロダクトライフサイクル理論」というものがあるみたいです。切り口はこの記事とは異なるので併せて調べてみるとより理解が深められるかもしれません。
起
新しい技術が発明された瞬間です。黎明期とも呼ばれる時期。新しい技術が静かに産声を上げます。この時代は技術者が中心の文化として発展していきます。
web業界でいうと90年代初頭か半ばまでの頃でしょうか。
いかに革新性を出せるか、という技術力や研究開発力が重要なので、まだその分野においてデザイナーが活躍できる幅は狭いです。(技術を広めるために広報分野などで関わる場合は別)
一部の先見の明がある人たちが注目し始めるものの世間評価や認知はまだ低い時期です。
承
技術の革新性が評価され始め、
感度の高いマーケターやクリエイター、実業家などが参入してきて技術の活用方法の可能性を探っていく時代です。
この時期はその技術の可能性を拡げるアイデアが評価される傾向が強いと思います。
web業界でいうと1990年代後半〜2000年代中頃くらいでしょうか。
まだ私は当時中学〜高校生くらいだったので業界のリアルは分かりませんが、フラッシャーなど表現にも強みを持つ方の参入が増えていた時期のように思います。
まだ上の世代が少ないので若い世代が活躍しやすく、若くて勢いのある経営者やフリーランスが参入してきたり、あとはまだ色んな仕組みや制度が成熟していないので、ずる賢い人が仕組みの穴をついて荒稼ぎしてたりなんて人も出てきやすい気がします。(当時はブログ記事の末尾に記事とはまったく関係ないワードをただ羅列するなんてSEO対策が有効だったりしました。笑)
業界的には限られた層から理解を得始めますが、まだまだ世間的、特に上の世代からは軽視されたり、懐疑的な目で見られやすいフェイズです。
転
徐々に業界が成熟していきます。世間的にも必要性や有用性が理解され始める時期です。
web業界でいうと2000年代後半ごろからこの潮流が始まって、
現在はこの時期の終わりかけくらいの時期にいるような気がします。
技術の活用方法がある程度出揃ってきて、次は質の向上や体験価値を深めていくことにフォーカスされる時代に入っていきます。
web業界で言えばこの時期の序盤にUI/UXという言葉が広まりはじめ、近年ではブランディングという概念を多くの会社が口にするようになってきているのも特徴的な現象な気がします。
このフェイズに突入すると、これまで考えられなかった層からの参入も目立ってきます。
既存業界で既に地位を確立されている方も、一つの産業として認め始め、専業としての参入までは珍しいまでも、一つのオプションとして取り入れたりなどは珍しくなくなってくる時期でもあります。
今はグラフィックデザインの会社がwebまで手がけている例というのもそこまで珍しいものではなくなってきているように。
本質的な価値が追求される傍らで、小手先のテクニックや単発のアイデアで戦っていた人たちは徐々に評価されづらくなってくる時期でもあります。
また、この文化が浸透していく一方で
「確かにこういう技術が開発されて世の中は便利になったけど、昔あった良さが失われちゃっているよね。」と主張する層も一定数出てきます。
産業革命後のアーツ&クラフツ運動なんかもそういう”転”の時期の潮流の一種かなと思います。
(産業革命で大量生産が可能になった弊害で粗悪な商品が世に溢れていた時代に、ウィリアムモレスという方が「手仕事の時代の良さを取り戻そうぜ」と言って手仕事の製品を数多く発表し、世界中のクリエイターに影響を与えた運動)
webデザインで最近エディトリアルやアナログのエッセンスを取り入れようとするアプローチが流行っているように感じるのも、こうした潮流の一種なのかもしれません。
結
結と言うよりは成熟した状態、というニュアンスの時期です。
新しい技術と、以前の価値観との狭間でのせめぎ合いが落ち着き、それぞれの棲み分けが確立されて一つの文化として成熟した時代です。
以前の価値観の派閥が淘汰されてしまうケースもあれば、それぞれがそれぞれのポジションを見つけて、棲み分けて活動していくケースもあります。
例えばデザインの業界で言うと活版印刷なんかは棲み分けがされていて、その後のプリンタやDTP技術の出現によって印刷の主戦場はデジタルに奪われてしまいましたが、凹凸の質感やインクの墨だまりなどが醸すアナログ感によって今でも根強い人気があります。
逆に音楽なんかはレコード、カセット、CD、MD、ウォークマン、サブスク…と媒体が進化してきましたが、淘汰されてしまった文化もありますよね。
(レコードなんかはアナログの良さで今でもファンが多かったりしますが)
終
文化が過去のものになった場合ですね。
新しい技術の誕生によって、以前の文化の発展が終わるとこのフェイズに入ります。
中々ピンと来やすそうな例が思い浮かばなかったですが、歴史を遡ると石碑や浮世絵など…?狭い視点で言えば先ほどあげた音楽でいうMDやカセットなどが当たるかと思います。
ちなみに今栄えているものが明日から突然このフェイズに突入するなんてことはほぼなく、これまで結のフェイズにいた文化が数年〜数十年をかけてゆるやかにこのフェイズに移行していきます。
終がいつ来るか、また、どんな形で来るかは予測しようにも難しい。
web時代の終焉だって早ければ数年後かもしれないし、もしかしたら1000年後も生き残っているのかもしれないっていうくらい予測がつかないです。
ただ、新しい技術が出てきたら気にしておいて、取って代わられることがないかは意識しておいた方が良いのかもしれません。
webデザインの今後
webデザインは、先ほど述べた通り、今は「転」の終わりかけくらいの時期にいると思います。
トレンドの変化や技術進化などは常に起きていますが、視覚的に分かりやすい部分の変化は2010年を少し過ぎたあたりからかなりゆるやかになっていると感じます。
今後もwebサイトという体験の中では今では想像もつかないような大きな革新はもうそんなに起きないんじゃないかなと感じています。
なので、今後はある程度できることの可能性が固まってきたwebサイトと言う媒体に対して、より制作の質や効率を上げるための手法や、
あるいはwebサイトという媒体の価値をより深めていくための考え方や方法論といったことが業界の話題の中心になっていくのではないかと思います。(既にそうなっている気もしますが。)
まとめ
いかがだったでしょうか?
あくまで私の自論なので、一つの考えくらいで理解いただければと思いますが、産業、ファッション、DTP、ゲーム、Youtube、写真、どんな業界でも割と近い流れを辿っているんじゃないかなと思います。
私は音楽が好きなのですが、例えばエレキギターやロックなんかの文化が広まり始めた1960〜70年代は奇抜な奏法やパフォーマンスをする人が沢山いて、そう言う人が多く脚光を浴びていました。(もちろん楽曲や演奏も素晴らしい方も多かったですが)
ですが、今は新しい奇抜な奏法を編み出すよりもしっかりと音楽的に素晴らしい演奏ができるようになる方が評価されやすい時代になっている気がします。
Youtubeなんかでたまに面白いアイデアでバズる方もいますが。笑
でも裏付けされた実力がないと長続きはしないですよね。
そして、この話は業界のような大きい括りだけではなく、もう少し細分化して見てもやっぱり同じような流れがある気がします。
たとえば私が最近推しているノーコードツールなんかは今は”承”のフェイズにいるような気がします。
既にwebクリエイティブで自分のポジションを確立しきっている会社からの参入はまだ少ないですが、すでに感度の高いクリエイターや若手などを中心に盛り上がりを見せてきていると思います。
そして数年後くらいにはノーコードが”転”の時期に突入し、
今では考えられない著名な制作会社さんなどでの導入事例も増えていく一方で、
「あんなもんは邪道だ!どの会社もコーディングしなくなってから質の低いwebサイトが増えた!」みたいな主張をする方も一定数表れて、盛んに議論が繰り広げられるなんて未来もありそうな気がします。笑
自分が所属する業界が、あるいは扱っているものが今どの時代にいるのか意識してみると、今この業界で求められているものは技術なのか、アイデアなのか、体験価値なのか、といったニーズに気づくことができるかもしれません。
あるいは「自分は面白いアイデアを考えることが”承”のフェイズの業界に飛び込もう!」といったように自分の得意から逆算して飛び込む業界を決めるなんて考え方もできるかもしれません。
この記事が何かの参考になれば嬉しいです。ではまた!
ブランディングの教科書
人によって定義のぶれやすいブランディングについて、言語化から実践するための方法までが一冊にまとまっています。