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  • Yuji Ishibashi
    戦略設計やブランディング、デザイン表現を強みとしたWebデザイナー/ディレクター。数社の制作会社に勤めたのち、現在は"mono."の屋号でフリーのweb制作者として活動中。
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「好きなデザインをすること」は「悪」なのか?

2023.02.15

コラム

デザイナーをしていると「デザイナーは自分の好きな表現をするんじゃなく、お客様の課題解決や目的達成のためにデザインをするんだ。」「自分の好きなデザインをするというのは仕事じゃなくてただの自己満足だ。」という話を耳にする機会が度々あります。

確かにお客様からお金をいただいて仕事をしている訳だから、至極当然の話という感じがします。発注する身としてはデザイナーの自己満足のためにお金を払っているわけではないですからね。

また、お恥ずかしながら私自身、デザインを始めてしばらくは自分のエゴを出しすぎて周りに迷惑をかけてしまうこともありましたし、周りでもそういうケースは度々目にするのでデザイナーが戒めとして心に留めておくことに一定の価値がある言葉だとも思います。

でも、この戒めを本当に額面通りに受け取るべきなのかというと必ずしもそうではないような気もしています。その辺りの感覚を言語化してみたので、何かの参考になれば幸いです。

1.仕事とは、クライアントやプロジェクトの目的達成のためにある

まず、大前提として仕事とはほとんどの場合お客さまないしプロジェクトの本質的なゴールを達成するためにあります。

なので、お客さまの求めているものやゴール達成を無視してデザイナーの自己表現、承認欲求が先行することは仕事の本質からずれてしまっていますし、不幸な結果を生みやすいです。せっかくお金を支払っていただけるお客さまのためになりません。
そうまでして自分の好きを通したい場合は、私も広く言われている意見と同じように自己表現の場でやるべきだと思います。

デザインはアートじゃないとか、仕事は好きなことをやる場所じゃない、という言葉はこういうケースへの戒めとして広まった言葉だと思います。

2.「好き」なことをするのが悪いわけじゃない

でも、この問題って「デザイナーが好きなものを作った」から起きてしまっているわけではなく、あくまで「プロジェクトの目的達成」と「デザイナーの好き」がずれている、しかもプロジェクトの目的よりデザイナーの好きの方が優先されてしまっているから起きてしまう話だと思うんですよね。

確かにそういう状態でデザイナーが強引にエゴを通そうとすると某監督から
「お前のためにチームがあるんじゃねぇ、チームのためにお前がいるんだ。」
とでも怒られてしまいそうです。

でも、「デザイナーの好き」と「プロジェクトのゴール」が一致する場合、デザイナーは好きなものを作っていいと思います。

3.むしろ「好き」は価値

そして、その「好きなものを作っていい」は、単に「好きなものを作ってもいいよ」という許可のニュアンスではなく、むしろゴールとデザイナーの好きが一致しているなら、積極的に好きを出した方がいいとすら考えています。

例えば、ある商品のブランディングのためにデザイナーをアサインするとして
「別にこの商品好きでもないし、求められているトーンも自分の価値観とはそんな合わないけど、まぁ、仕事だから真面目にやるか。」
というスタンスの人と
「この商品昔から大好きです!ずっと愛用してきたので、ぜひ頑張って更にもっと沢山の人に好かれるデザインにしたいです!」
というスタンスの人、どちらにお願いしたいですか?

あまり過剰アピールになってしまうと違うベクトルで心配になることもありますが、基本的にはおそらく後者の人にお願いしたい方が多いと思います。

私が誰かに発注をする時も、当然適性や経験などといった基本的な要素も意識しますが、同時にこのプロジェクトを楽しんでくれそうか?という点も同じくらい重視しています。

それは、やっぱり「好き」という感情を起点にして生み出されるものに一定の価値を感じられるから生まれる考え方だと思います。

さまざまなケースを見ていて、本当に良いものが生まれるプロジェクトはクリエイター側も依頼者の気持ちや考えに寄り添いつつも、受け身にならずに自分の「好き」や「らしさ」を活かした案を積極的に提示する。
受発注など立場の垣根を超えて、お互いにリスペクトの気持ちを持ち、受注側も求められたお題に対して自分たちの価値観をしっかりと表現しながら意見を交わせる関係が築けている場合が多いと感じます。
よく「化学反応が起きた」などと言われる状態ですね。

4.「好きなものを作らない」のではなく「好きを求められる場所に行く」

なので、このテーマは「デザイナーは好きなことをしちゃいけないんだ」と捉えるのではなくて「好きなことをしたいなら好きが求められる環境を作らないといけないんだ」と捉えるのが良いと考えています。

自分の「好き」が求められない場所にいるのであれば、当然求められることとやりたいことが一致しないので「好き」を表現しても迷惑にしかなりません。とりあえず求められたことをやってね、となってしまいます。

逆に、「好き」が求められる場所にいればその「好き」は「強み」と言い換えることができるようになります。その「好き」を持っていない人では実現できないアイデアなどが生まれる可能性があるからです。
「好き」な感情の表現の仕方さえ間違えなければ、プロジェクトに活力も生まれます。

5.「好き」を求められる場所への行き方

今現在、「好き」を求められていない人が「好き」を求められる環境を手に入れるにはどうしたらいいか。

これは多くの方法があると思います。
ただ、ある程度王道パターンはあると思っていて、端的に言うと以下です。

会社員としてのキャリアを選んでいるのであれば、好きな価値観を持つ会社へ転職(就職)すること、 事業主としてのキャリアを選んでいるのであれば、好きな仕事を引き寄せるポートフォリオづくりや発信をすること、あるいは好きな価値観を持つ会社へ営業すること。

もちろん、他にも上司に相談したりなどして今いる環境の中で取り組み方を変えるようにしたり、規模のある会社であれば部署異動など他にも様々な道があると思います。

6.その行き方を実現するために

既に転職や営業が成功する材料が揃っている場合はすぐ行動に移せば良いと思います。でもまだその材料に乏しかったり、チャレンジはしているけど中々上手くいかない…。というケースもあるかと思います。

その場合に取るべき行動は私の知る限り大体2通りです。
それが「今の仕事の中に好きを混ぜること」または「仕事以外で好きなものを作ること」です。
「好き」をPRできる実績を作ること、とまとめても良いかもしれません。

今の仕事の中に好きを混ぜる

目標から逆算して、必要な行動の一部を今の仕事の中に取り入れるパターンです。

デザイン仕事の場合、与えられた与件に対して一つの正解しかないケースは稀で、多くの場合ゴールに行き着くまでにはたくさんの選択肢があります。 なので、求められている範囲の中で5%でも1%でも自分の好きを混ぜる、というくらいのことは出来る場合も多いのではないかと思います。あるいは求められた通りの案とは別に自分が良いと思うB案を提案してみるというのも良いと思います。

例えば「私は文字にこだわりたいけど今の会社は慣習的にフォントの加工などはせずポピュラーな既存フォントでさくっと組むのが常識になっている」という状況があったとして、既存フォントで組むよりデザインの質が下がったり、他の仕事に支障が出たりしなければマイナーなフォント含めて選定したり、自分でフォントを作ったからといって怒られることはないと思います。
そして、その実績があれば転職活動で「私は自主努力として数百のフォントから選定したり、場合によってはフォントから自分で作るようにしていました。」などとPRできるようになるので、文字にこだわる会社へ転職しやすくなると思います。

また、余談ですがたまに「本当は●●なデザインがしたいけど、今の会社では××なトーンの仕事しかないので実績が作れないんです。」という話を聞くことがありますが、個人的には誤解があるかなと思います。
確かに特定のデザイントーンを強みにしている会社に応募するなら近いトーンの作例もいくつかあった方が良いとは思いますが、かといって離れたトーンの事例がPRに繋がらないということもないかなと思います。
どのように課題設定をしてその課題に対してどのようにコンセプトを決めるか、リファレンスはどう集めどう活用するか、お客さまやディレクターとのコミュニケーションはどのように行うか、など分解するとPRにつながる要素は色々あるかと思います。

仕事以外で好きなものを作る

とはいえ、仕事の中で解決するのはその会社の文化などに左右される面もあると思うので、上記が難しいと感じる場合は仕事以外の時間を活用するのがおすすめです。
何もデザインができる場は仕事だけではないので、仕事以外の場で好きなものを作り発信すると良いと思います。

自主制作の作品をSNSにアップしたり、コンペに参加したり。あるいは「作る」というアクションではないですが、尊敬する人たちが集まるコミュニティやセミナーなどに顔を出してみて直接どうしたらいいと思うか現状を相談してみたりしても良いかもしれません。

そういった活動が一つの主要な実績にできますし、その活動自体が誰かの目に留まって今後の転機になる可能性もあります。
ある程度ターゲットとする企業群を決め、そういった企業に興味を持ってもらうことを目的に行動を積み重ねていけば、遠くない将来必ず自分を必要としてくれる場所は見つかると思います。

まとめ

いかがだったでしょうか? 自分もまだまだ偉そうにデザイン論なんて語れるような人間ではないのですが、「デザイナーは好きなことをしたらダメ」という論はなんだか夢がないし、そればかりでなく本当に価値あるものが生まれにくくなる考え方でもある気がしてしまっていたので、私なりの考えを載せてみました。

多くのデザイナーは原体験として表現が好きというのがあると思いますし、多かれ少なかれ好きな表現をすることへの憧れがあると思っています。
(ちなみにその「好き」はデザイントーンに限らず、仕事の進め方、働き方、言葉の選び方、価値観など多様な意味に当てはめられると思います)
もちろん、繰り返し述べているようにその憧れがプロジェクトで求められていることを逸脱してしまうと悪く言われても仕方ない状況になってしまうのですが、だからと言ってそれが即ち「デザイナーという職業は好きを抑えて仕事をしないといけない」ということでもないと思っています。
むしろ、一線で活躍している方の多くは「好き」を武器にして活動しているように感じます。

私は最近でこそありがたいことにいただくお仕事の多くが好きな内容のものになってきているのですが、中々やりたいことができず悩んでいた時期も長かったので、近い悩みを持っている人にとって何かの参考になったら嬉しいと思います。

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